SOLEIL

開発スタッフインタビュー

松井 宏明

ディレクター

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Profile

松井 宏明
横浜出身。明治大学で文学を学び、卒業後テクモ株式会社へ入社。
プログラマーからモーションデザイナー、アート等のセクションディレクター等幅広い経歴を積み、『DEAD OR ALIVE』シリーズや『NINJA GAIDEN』シリーズにてディレクターを務める。
2008年にソレイユ株式会社として独立し、『Devil’s Third』に参加。最新作は8月21日に世界各国で発売された『Samurai Jack: Battle Through Time』。

松井さんはどのような経緯でゲーム業界に入られたのでしょうか。はじめから、ゲーム業界を志していたんですか?

松井:なんだか申し訳ないんですが、言うほど志していませんでした。コンテンツ産業だけじゃなくて『ものづくり』という広い幅で、なんとか人並みに就活を始めまして。その時にDM(紙の)が来ていたテクモのセミナーに行ってみた、というのが入口でした。
いい加減と言うか、良く言えば未分化な状態で、マンガ描くとかロックするとか格闘技するとか文学どうたらが好きな人間が、何かしら役に立てるかなと。なんとなれば絵も描けるしとか、勘違いも混ざりつつテクモに入社しました。

特にゲームということはなかったと。

松井:ゲームはというと、ちょっと風変わりな角度で接していました。アーケードの大型筐体には体感マシンとして妙に魅力を感じていたり、その一方でお金のかからないフリーのゲームソフトを漁ったりしていました。小銭を握って最寄りの繁華街まで1時間ジョギングして、ゲームセンターのコクピット筐体でいくらか使って、また1時間走って帰るなんてことに充実を感じていた一時期、いまいち謎の中学時代です。

もうひとつ、ゲームということでは、親にせびって買ってもらったステップ処理のポケコンに始まり、わりと早くからPCに触ってはいましたよ。ゲーム目的で。超テキトーでしたが。

入社後、最初に携わった作品はどんなものでしたか?

松井:当時、2Dの対戦格闘が流行っていたので、入社すぐはそんなプロジェクトで1年くらいあれこれとアイディア出しをしていました。新人の無責任さもあってアホなアイディアも出したりしてけっこう楽しかったです。猫格闘とか。
けっきょく対戦格闘は無しになって、チームはそのままで落ちものパズルに移行したのですが、そこでできたのがアーケードの『でろーんでろでろ』というゲームです。ゲームはさまざまなアイディアと工夫から生み出されるものですが、でろ~んって伸びるアイディアを思いついたのは自分なので誇らしい限りです(笑)

その後すぐTeam Ninjaへ?

松井:ちょうど『でろーんでろでろ』が終わった頃、板垣係長(!)の『DEAD OR ALIVE』(3D格闘ゲーム)の開発がまだ初期だったんですが、そのゲームショウ出展が目の前で。でも3Dのモーション屋なんてまだほとんどいない時代でしたから、とにかくモーションの手が足りない、間に合わない。 そこで、新しい分野だから誰でも始められるぞということで大勢が急遽投入されて、私もそこにいたわけです。格闘技の経験とか、教科書にパラパラアニメを描いてたスキルが活きまして。
その流れから板垣さんの下でいろいろやる機会が出てきて、多くの分野で企画作業やクリエイティブのリードを任されるうちにディレクターの立場にもなりました。

実はですね、もともとは会社というものを3年間見たらマンガ家目指そうと思っていたんです。公言もしてて。まあ、何々になるって表明して退社するのも珍しくはなかったんですよね。『DEAD OR ALIVE』の一作目が終わった頃に、それを聞きつけた板垣さんが「おぅ松井、良くない噂を聞いたんだが」ってやってきました。夢を語る板垣さんの熱量が凄かったです。 たしか『DEAD OR ALIVE』の成功で足場を固めて『Team NINJA』と名乗ったのはその後のことでした。

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ファミコン時代のIPをXBOXで新作することになった『NINJA GAIDEN』では、ゲーム全体をデザインしてディレクターとプロマネとをやりましたが、いろんな未熟さからこれが半端なく苦難のプロジェクトで、遅延するし首が回らない。終わった時にはほぼ戦犯みたいな(笑)
この仕事、エネルギー使うけれどディレクター視点では完璧とか満足までたどり着けるものではまあ、なかなか無いので、リベンジリベンジと思いながらやってましたね。あ、誤解を招きますね(笑)みんなと分かち合える達成感というものは実に尊い。満足じゃないとなると不甲斐なく、そこで終わると負けだから、チャンスを見つけてリトライです。

松井さんといえば美術の面に強いイメージでしたが、昔はプログラマーとしてもご活躍されていたと伺いました。

松井:大昔ですよ。活躍と言うほどの期間でもなくて、ペーペーの頃のほんの数年です。最初に携わったその『でろーんでろでろ』で……でろでろ連呼してますが、まがりなりにもプログラマーとしてアセンブラ書いてたんですよ。プログラム2人でしたが、すごくできる先輩のサブだったので、たいした不安もなく、ある程度の範囲の勉強ができました。自慢になるほどのものではありませんが、ただ機能の視点とか感覚ということでは良い経験を積めたと思っています。
ちょうどゲーム機がどんどん高性能になってゆくタイミングで、あんなこといいなできたらいいなを技術的な可能性から着眼というか、妄想できたというのがありますし、そんなバックボーンだからプログラマーとアーティストとかセクションの間にも立ちやすい面がありました。プログラマーさんたちにはいろいろムチャを聞いてもらいました。

文学、マンガ、モーション、プログラム等、その幅広い視野や好奇心はどのように培ってこられたのでしょうか。

松井:うーん。いろいろな分野ということなら、ほとんどは行きがかりで踏んできただけで。 専門のスタッフ達がいる中で、私のようなのは圧倒的に浅いですし、反復に乏しいのでそれぞれについてアップデートもできていません。任せるし、いろいろ教えてもらいます。
そもそもの好奇心については性分でしょうか。でも飽きっぽいですよ。仕事ではそうも言ってられなくて、ちょっとモードが違うんですが、それでもさらに深く掘り下げてくれるスタッフがいるからほどほどで。紹介した世界にフェチを見出して深堀りしてくれる人がいたりすると嬉しいです。

ただ雑学みたいなことでも、クリエイティブにはいろんな観点が必要なので、マニアックとは言えないけれど、もちろんすべて知ることもできないけれど、見当が及ぶ範囲が広いことは大事です。ネタに対して深く感じることができて、作業に対して正しめのリアクションができる根拠を持っていることが前提です。
そうか、確かに、行きがかりの場面で必要に応じて広がったことは実際多いですし、調べていると時間を忘れる楽しさもあります。
……と、いうのが私の脳内カオスの言い訳ですが、よろしいでしょうか?

ばっちりです(笑) 興味の幅が広いからこそアート、企画、プログラムを横断して指揮が取れるディレクターとして、ソレイユの独立を支えてこられたわけですね。

松井:え~と、ディレクターとしてとなると、もちろんそうありたいと願いつつ、支える実感では風呂の栓として。これはこれでかっこ良すぎかも。ソレイユにはそういう風呂の栓が何個もあるみたいです。

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ところで、今回はどんな経緯で『サムライジャック』のゲームを作ることになったんですか?

松井:『NINJA GAIDEN』を作った実績は大きかったでしょうね。開発を任せてもらうことになりました。チャンバラとかメレーのアクションを作れるというのはスタジオの強みです。
ワールドワイドな有名アニメなので今まで何度もゲームになっていますが、今回は旧シーズンの終わりなき戦いを決着させた13年ぶりの新シーズン、世界から絶賛された完結編が2017年に放映されたことを受けてのゲーム化です。格別だと思います。

原作『サムライジャック』の魅力とは?

松井:『サムライジャック』は深いメッセージを含んでいて、脆い存在の人間が目指すべき美徳と、意志の力が示されています。ゲンディ監督が生み出した究極的にシンプルなスタイルで見事にそれを描き切っていて、アニメで宿命的な品質不安をサラリと超越した先で、完璧に演出に集中してますよね。お茶目でありシリアスであり。天衣無縫というのか、表現の意図に合致して完全なものってなかなか無いです。

『Samurai Jack : Battle Through Time』は原作アニメとどのように繋がっていますか?

松井:シーズン5をそのままゲーム化したのではなくて、そこからさらに発展する物語になっています。そして旧シーズンも合わせたサムライジャックワールドが本作での舞台になりました。懐かしいところをモチーフにしながら、目新しいシチュエーションが展開していきます。

海外のIPものという点で、今までと違う大変だったことはありますか?

松井:あんまりないというか。開発資料を英語と合わせて二重化する必要があったりというのは、コミュニケーションを繋いでくれたスタッフにとても頭が下がります。ただ、海外IPではないけれど、海外との仕事は多いので特に違うということもありませんでした。
IPホルダーのアダルトスイムの皆さんも柔軟性があって、開発に集中できるようにいろいろ配慮して貰いました。

海外で確立した作品性をゲームに落とし込むのはたいへんそうです。

松井:そうですね、完結している海外IPの新作追加部分になりますから、たしかにシナリオ作業がすんなり進められたわけではなくて、そこはゲームパートとの兼ね合いもあって密なミーティングが必要になるのですが、原作のメインライターのダリック(バックマン)さんがよっしゃ!とばかりに東京にやって来て、すごい精力で仕上げてくれました。ストーリーの魔術師でしたよ。
ゲームパートの開発でもアダルトスイムゲームズのスタッフが数回来日して、昼も夜も濃いコミュニケーションができたし、楽しかったです。

原作のゲンディ監督は絵コンテや作画監督として『パワーパフガールズ』シリーズも手掛けていたということで、子供のころにシリーズをよく見ていた私個人としてもかなり思い入れのある方ですが、どんな方なんでしょうか?

松井:15年くらい前にスター・ウォーズが個人的に再フィーバーしていて『クローン大戦』も見たんですよ。DVDで。
たいした気構えもなく見始めたんですけど、アクションシーンでバーン!とくるダイナミックさに、はえぇ~となりまして、何度か繰り返し見て。ゲンディさんのことはまだよく知らなかったけれど、インパクトありました。
開発前にまず会ってみたら、まあ、いいおっさんな感じで。日本の学年で言うと実はタメだったんですが。ちなみにシナリオのダリックさんもタメ、こっちのプロマネのゴリもタメ、というプロジェクトでした。たまたまですけど(笑)

クリエイターとしての鋭さはすぐに分かりました。強烈なコンセプターで、ビジョンとかガイドラインを示す言葉がかっこいい。”No blue sky, No green grass”.
ジャックがいる希望が褪せた世界の色として、彼の心象まで反映するパレットなんですが、そう決めていましたよ。ポピュラーな言い回しなのかも知れないけど、アニメの風景がバー!って浮かんできて、おぉ~って思いました。 このキーワードでTVアニメを作れるってかっこ良くないですか?

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『Samurai Jack: Battle Through Time』で一番こだわったポイントについて教えてください

松井:もちろんサムライアニメの題材に対して、アクションゲーム屋が作るとなれば、ゲームならではのバトルプレイはなにより重要なポイントです。 同時にこのゲームの最大の価値は当たり前ですけど『サムライジャック』であることです。
そこに余計な捻りは要らなくて、ジャックの世界にすんなり入って行けるように、雑音になるような煩わしさはできるだけ無くしてやりたい。だからゲームスタイルはオーソドックスでとっつき易いこともとても大事だと思いました。
その中で、動きたい気持ちに障害なく応えてくれる良質で間口の広いアクション感覚を追及しています。

それとですね、独特な世界観が魅力のIPなわけですから、その印象が香り豊かに感じられるだけの量感を生み出すこともまた、大きな開発ポイントでしたね。『サムライジャック』のファンでもある僕らとして。

そんな『Samurai Jack: Battle Through Time』も本日発売(8月22日現在)ということで一件落着というところかと思いますが、もうすでに新しいゲームの開発にも着手されているのでしょうか。

松井:皆さんのおかげを持ちまして、いよいよ発売となります。
新しいゲームも、はい。取り掛かってます。 いろいろ内緒ですけど、今度はリアルタッチになりますね。家庭用ハイエンドで、もちろんソレイユ印のアクションですが、新しいアプローチもかなりあって、作り手にとってもなかなかチャレンジングです。
すぐには出ませんが、ご期待いただけますように。

私も同じソレイユの一員ですが、松井ディレクターが手掛ける新しいタイトルを楽しみにしています。最後に、ソレイユとしての今後の展望を教えてください。

松井:特に自分の守備範囲として、まだまだバトルアクションゲームを作っていくことになるでしょう。根強い様式に価値を置きながらも、どんどん変化して進歩してゆくこのジャンルは、最近だといよいよパーフェクトに感じられる要素が新作ビッグタイトルごとにベターベターでまとめ上げられてきている流れですよね。誰が見ても、画面でそれがわかり易いです。
スタジオの得意分野とは言っても、まわりから大いに刺激を受けながら常に進化して行かないといけないので、そのための足腰を、ソレイユは今後もまだまだ走りながら鍛えていくことになります。
ひとつひとつを大事に、身近なスタッフや協力してくれる方々と一緒に、一作ごとにパワーアップしていきたいです。